東京地方裁判所 平成3年(モ)70566号 決定 1991年10月07日
申立人(本訴原告・反訴被告)
株式会社大東化成
右代表者代表取締役
野内秋雄
右訴訟代理人弁護士
小池剛彦
相手方(本訴被告・反訴原告)
株式会社ラッキーフーヅ
右代表者代表取締役
山口昭弘
右訴訟代理人弁護士
柴田五郎
右同
淵脇みどり
主文
東京地方裁判所平成三年ワ第七〇〇六四号損害賠償請求事件を、千葉地方裁判所に移送する。
理由
1 申立人は、本件基本事件を千葉地方裁判所に移送することを求めているところ、一件記録によれば以下の事実が認められる。
(1) 申立人は、相手方外一名を被告として売買代金等を請求する訴えを千葉地方裁判所に提起していたところ(千葉地方裁判所昭和六三年ワ第五六一号売買代金請求事件)、平成二年一一月ころ、相手方は申立人に対し、申立人において請負契約に基づく債務を履行していないから損害を被ったとしてその損害を賠償すべき責任があると主張し、右損害賠償請求権のうち一〇〇〇万円を反対債権として相殺の抗弁を提出するとともに、右反対債権を請求原因事実として、同裁判所に対し、損害賠償請求事件(同裁判所平成二年ワ第一六一五号、以下「別訴事件」という。)を反訴として提起した。
(2) 一方、申立人は、相手方を被告とする為替手形金請求事件(東京地方裁判所昭和六二年手ワ第九五二号)及び約束手形金請求事件(同裁判所同年手ワ第六八九号)を東京地方裁判所に提起してそれぞれ勝訴判決を得たが、相手方はこれに異議を申し立て、右異議申立後の事件が、同裁判所平成元年ワ第七〇〇九四号為替手形金請求事件及び同裁判所同年ワ第七〇一一七号約束手形金請求事件として当裁判所に係属した(以下右両事件を「本訴事件」という。)。相手方は、平成三年三月一二日、申立人に対して別訴事件と請求原因事実を同一にする債務不履行に基づく損害賠償請求権を有すると主張し、相手方の右手形金の支払義務が認められた場合には、申立人に対する右損害賠償請求権のうち別訴事件で請求していない一〇〇〇万円を反対債権として、本訴事件の手形金債権と対当額で相殺する旨の抗弁を予備的に主張するとともに、右反対債権を請求原因として当裁判所に損害賠償請求事件を反訴として提起した(本件基本事件、以下「反訴事件」という。)。
(3) 右のように、反訴事件は、本訴事件の反訴として提起されたことにより、本訴事件と併合して審理されるべきところ、当裁判所は、本訴事件について証拠調べをすべて終了していることから、すでに判決をするに熟しているものとして、平成三年七月八日の第二〇回口頭弁論期日において反訴事件である損害賠償請求事件を本訴事件から分離したうえで、その弁論を終結した。
2 反訴は、本来的には、本訴のための訴訟手続内で、これと併合審判を受けるための訴えであるが、これは、原告から訴えられた機会に被告にも原告に対する請求のために同一の訴訟手続を利用させるのが公平であるとの要求と、関連した請求を併合審理することにより審理の重複、判断の矛盾・抵触を避けるとの要請に由来する。ところで、本訴事件においては、本件為替手形及び約束手形に基づく支払義務の存否が直接の争点であるのに対し、反訴事件は、申立人における請負契約の不履行を理由とする損害賠償請求権の存否が争点となっている訴えであって、当裁判所は本訴事件を審理するに当たっては、右のとおり争点の整理を行ったうえで証拠調べを行なったところ、右訴訟手続がほぼ終結に至った段階で本件反訴の提起がなされたものである。そうであるとすれば、本訴事件と反訴事件とは、同一の権利関係の確定を目的とする請求や同一の目的を有する請求ではないのであって、併合審理をしなければならないというものでもないから、本訴事件と反訴事件とを同一手続内で審理する合理性は乏しいといわざるを得ない。しかも、反訴事件と全く同一の請求原因事実に基づく別訴事件である損害賠償請求事件が千葉地方裁判所に提起され、証拠調べ等も行われているというのであるから、反訴事件を当裁判所で改めて審理するとすれば、その訴訟進行につきいたずらな負担が生じるだけでなく、審理の重複による損害を発生させることは明らかである。本訴事件を分離して弁論を終結したという事情のもとにおいて、右損害を避けるためには、反訴事件を千葉地方裁判所に移送して審理することが相当であると認められる。
3 よって、民事訴訟法三一条により反訴事件を千葉地方裁判所に移送することとする。
(裁判長裁判官星野雅紀 裁判官坂野征四郎 裁判官山之内紀行)